アメリカンポケットウォッチ INFORMATION
第5回 ILLINOIS WATCH CO. イリノイウォッチカンパニー
多くの優れた機械を世に送り出したイリノイの歴史は1869年にIllinois
Springfield Watch Co.としてJ.C Adamsが主となって設立されたところから始まる。初期の製作者にはJ.T
Stuart, W.B Miller, John W Bunn, George Black,
George Passfieldといった人々がいた。1879年にはすべての時計をクイックトレイン(5振動)に変更し、1882年にはゼンマイを自社で製造、使用した。翌年には陶製ダイアルも制作している。1879年にはSpringfield
Illinois Watch Co.、1885年にIllinois Watch
Co. と社名を変更する。 イリノイというメーカーはマイナーなイメージがあるがそれは腕時計の時代の印象によるところが大きい。1880年までの制作台数190,000台はウォルサム、エルジン、ハンプデンに次ぐ生産量であるし、1900年までには1,000,000台、1930年までの総生産は5,300,000台に達しハンプデンを抜いている。アメリカの時計メーカーでは大手である。
しかしながら1927年にハミルトンに買収されてしまう。その後、1932年まで新しい経営体制のもとで製作が続けられたが、1933年にはハミルトンによって作られた時計にその名を使われることになり1939年にはその名前も消えることになった。
イリノイは優れた技術力を持ったメーカーだった。このことは他のウォッチメーカーには出来なかったレイルロードアプルーブの60時間巻を作り出していることからも伺われる。またゼンマイの巻き上げ機構にモーターバレルを18サイズの時代から採用していることでもいえる。
それではイリノイの主なモデルを紹介しておこう。
【18サイズ】
【16サイズ】
具体的にいくつかのモデルについて説明すると、例えば1920年製の16サイズ「バン」は19石、モーターバレル、5姿勢温度調整、ダブルローラーという記述がスプリットプレート上に刻まれ、スワンネックの緩急微調整装備があり、金製歯車(ゴールドトレイン)である。19石ですべてゴールドトレインは奢った作りと言えよう。勿論レイルロードグレードで公認鉄道時計のムーブメントである。
18サイズのファンにとってイリノイといえばまず逃すことができないモデルが「バンスペシャル」である。21石からあるが全てレイルロードクレードであり、25、26石は殆ど市場に出ない上に高価である。しかし、24石は一般のファンに手が届く価格で、しかも希少な為に人気が高い。この24石には5姿勢調整モデルと6姿勢調整モデルがある。
鉄道時計は公式の管理局の規格が出来てからは、いくつかの制約の為あまり変わった仕様のものはない。しかし、自主的にハイグレードなムーブメントを使用している頃の鉄道時計にはその後にはない使用のモデルがある(プレアプレーブと呼ばれる)。1887年のイリノイのモデルには15石、トランジションムーブメント(竜頭巻と鍵巻の併用)でイリノイパテントのレギュレイター(緩急微調整装置)付の鉄道時計がある。また、ムーブメントのプレート上に機関車の絵が刻まれており、文字盤には1から12までがローマ数字、13から24はアラビア数字で記されている。1から12を外周、13から24を内周に期した文字盤はカナダ鉄道用(カナダダイアル)で珍しい。なぜなら規格設置後は全てがアラビア数字になってしまうからだ。ダイアルは手書きである。ケースはハンターケースでこれも規格後には合致しなくなるので"プレアプルーブ"ならではのものと言っていい。
変わったところではサンガモ21石でムーブメントが赤と緑で彩色されているモデル。なおこの時計は金張のハンターケースである。レイルロードアプルーブのムーブメントでハンターケースは通常のオープンフェイスのものより少ないので一層希少であると言えよう。また、この頃のイリノイの16サイズのNo4と5のムーブメント(著名なモデルでは"Ben
Franklin" "A. Lincoln")はプレートの切り方が鳥の姿を横から見たようなデザインのスプリットになっており、後年のムーブメントデザインに比べると優雅な印象を与える。
この他、イリノイはノンマグネティックW. Co.、ボールW.
Co.にムーブメントの供給を行なっている。こうしたいわゆるブランド(ショップ)のムーブメントに供給を行なえるのは、その仕上げや機構に定評があり、イリノイのムーブメントを使っているということが価値を持ったからだろう。
イリノイのイリノイたるゆえんはただ希少だと言うだけではない。レイルロードグレードやアプルーブモデルに限らず仕上げがいいメーカーなのである。他のメーカーが悪いというのではなく、イリノイのムーブメントが贅沢なのだと言っていい。量の為には質を問わないということをよしとしなかった時計を作る企業としての良心が、今日までその名を残している最大の理由だろう。でなければ、約60年も前に名前すら消えた会社の作った時計を今でも探し求めて手にしたいと思う人々がこれほど多くいるはずがない。